広島大学クォーク物理学研究室:私たちの研究

(最終更新日 2009 年 2 月 20 日)

宇宙開闢 (ビッグバン) 直後、わずか数十万分の一秒の間、 高温高密度の宇宙はクォーク・グルーオン・プラズマ相と呼ばれる 現在とは全く異なった物質状態にありました。 粒子加速器を用いた高エネルギー原子核衝突の 実験的研究 により、 このクォーク物質状態を制御可能かつ系統的に実験室中に再創成し、 そこで発現する多様な素粒子物理現象を探求します。 壮大な宇宙創成の重要な一場面の実験的解明を通した 宇宙創生のシナリオ完成が 究極の目標です。 クォークの自由度を取り込んだハドロン物質の探求を通して、 クォークの運動を支配記述する量子色力学(QCD)を基礎に、 QCD がその特徴的な性質を露呈する非摂動的物理現象を究明し、 新しい物理学「クォーク多体系の物理学」の 実験的展開の責任を担います

クォーク物理学研究室では、 世界中の研究者との国際協力研究体制を構築し、 常に世界最先端の研究を推進しています。 1986 年には米国ニューヨーク州郊外の ブルックヘブン国立研究所 (BNL) AGS 加速器において 世界初の本格的高エネルギー原子核衝突実験研究 E802 を、 1990 年からはスイス・ジュネーブ郊外の 欧州合同高エネルギー物理学研究機構 (CERN) SPS 加速器において 衝突エネルギーをさらに 1 桁高めた実験研究 NA44 を展開しました。 NA44 実験では、 衝突原子核物質内部で集団運動的な横方向膨張が発生していることを 世界に先駆けて発見しました。 これら SPS 加速器における実験研究の成果は、 2000 年 2 月に「新しい物質相の創成」として 報道発表 されました。 さらに加速器技術の進展に合わせ、2000 年からは BNL 研究所において、 世界初の重原子核衝突型加速器 RHIC を用いた国際共同実験研究 PHENIX を日米科学技術協力事業(高エネルギー分野)の支援を受けて 推進 しています。 2003 年 6 月 18 日、PHENIX を含む 4 つの RHIC 実験の合同成果として、 「RHIC での重陽子 + 金原子核衝突からの最初の結果 -- 物質の新しい形態を裏付ける有力な発見 --」発表 しました。 そこで私たちは、金原子核のように重い原子核同士の衝突において発見した 「高いエネルギーを持つパイ中間子収量の異常減少」と 「粒子ジェット対称成分の抑制」の現象が、 軽い原子核 (重陽子) と金原子核との衝突では発現しないことを明らかにし、 金原子核同士の衝突中に通常の原子核衝突では創り出されない 未知の物質状態が発現していると結論付けました。 それは恐らく、前述のクォーク・グルーオン・プラズマ相だと考えられます。 さらに 2005 年 4 月 18 日には、同じく 4 つの RHIC 実験の合同成果として、 このクォーク物質状態がほぼ完全な液体としての性質を示すという、 これまでの理論的予想を大きく覆す 発見報道発表 しました。

この (古くて) 新しいクォーク物質状態のさらなる性質解明のため、 私たちは、CERN 研究機構の次世代加速器 LHC において 2009 年後半の開始を目標に 実験研究 ALICE の準備を 名実ともに日本グループの中心として 進めています。 LHC 加速器は、スイス・ジュネーブ郊外からフランス国境に跨る 周長 27 km の大型原子核衝突型加速器です。 2008 年 9 月の初運転は大きく報道されましたのでご存知の方も多いでしょう。 LHC 加速器では前述の RHIC 加速器の 28 倍も高いエネルギーでの 衝突実験が可能です。 ALICE 実験ではこの 世界最新鋭の粒子加速器を利用して、 クォーク物質の性質の包括的な理解に挑みます

また、私たちは、 本研究科附属高エネルギー物理学データ解析実験施設を基盤として、 超高速ネットワーク技術に基づく 地域分散処理型の実験データ解析環境を構築しています。 2003 年には広島大学のスーパーサイネット導入に伴い、 同ネットワーク上に構築する仮想専用回線技術により、 本施設と他研究機関とを 高エネルギー加速器研究機構を中核とした専用回線で接続する 高エネルギー物理分野国内ネットワーク HEPnet-J を 従来の 10 倍速、1 Gbps に高速化しました。 国際的に密に連携する共同研究への参画に加えて、 最新情報計算機器を駆使する科学研究手法の 修得 は、 学士号あるいは修士号取得後に社会人となるにせよ、 さらに博士号取得を目指すにせよ、 大きなキャリアアップに繋がります。